鳥瞰図のたのしみ

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私の愛読書

 「 北溟館物語」または「荒涼館」(ディケンズ)

4 探索と遭遇 (2)
 夫人の過去を探索していた人物がもう一人いた。ロンドンに着いたエスターを迎えたケンジ法律事務所の事務員ガッピー青年である。
 ガッピーはエスターに思いを寄せ、よかれと思って男爵夫人との関わりを探り、夫人に面会を求める。
 ガッピーはジャンディス氏の後見のもとにいるエスターの本名が「サマソン」ではなく、「ホードン」だと話した。また、餓死した無名の筆耕生がリボンで結んだ手紙の束を大切にしており、それが家主クルックの手に落ちたこと、それを手に入れる見込みがあること、もし夫人に興味があれば持参すると言った。

 夫人は姉のもとで密かに出産したのだが、姉から死産だったと言われていた。
信心家の姉は妹の不行跡を恥じ、夫と離婚して妹の子エスターを他人として育てた。
妹は社交界に復帰し、レスタ卿の求婚を受け入れた。
ガッピーに対して冷静にふるまった夫人の内心では、激しい思いが渦巻いていた。
私の子エスター、あなたは生きていたの!

ガッピーは古物商のクルック老人が不識庵の死後持ち物の中にラブレターらしい手紙の束を見付けて持ち去っていたことを知り、手に入れる話を進めていた。
しかし、約束の晩、ガッピーが老人の部屋に入って見たのは、ストーブのそばで酔っ払って倒れたまま、じりじりと焼け死んでいた老人と、紙切れの燃えがらだった。
男爵夫人の秘密を包む手紙の束は、永遠の謎を残したまま、灰燼に帰した。
(以下次号)
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