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私の愛読書「 北溟館物語」または「荒涼館」(ディケンズ)3 大坪家の一泊と翌朝の冒険ロンドンでの一泊は不思議な体験であった。 陣野氏はロンドンでの宿泊場所を近くに決めていた。旅館ではない。 なぜかJellyby(大坪)氏という人の個人宅だという。 それを告げた事務所のケンジ氏に、エスターはたずねた。 「大坪さんはどういう方なんですか?」 「大坪氏というのはね、何というか…まあ大坪夫人の夫といったらいいのかな」 大坪宅をたずねたとき、二階から子供が落ちかけていた。中に入ると子供たちがわあわあ泣いている。大人は留守なのかと思っていたら、大坪夫人は部屋で泰然としていた。 南アフリカの社会事業への寄付を依頼する手紙をたくさん書いている最中で、部屋の中は足の踏み場もないくらい散乱している。隅の小机にインクで指先が黒くなっている少女がいて手伝わされていた。 夫人は家事には全く無頓着らしく、無愛想な女中が一人いるのだが、手抜きをしても酒を盗み呑んでも気にしない。 この第4章の題名は「社会事業家」。 原題とその翻訳は「Telescopic Philanthropy」(望遠鏡的博愛)となっていた。 見るに見かねてエスターは泣いている子供と遊んでやったり、家事を手伝った。 エイダは「奇妙な家ね、陣野さんはなぜこんな家に私たちを泊まらせたのでしょう」と不思議がった。 夜、エスターの部屋に少女がやって来た。椅子に腰掛けることもせず、壁に寄りかかったまま、しばらくして不意に 「南阿なんて西の海にさらりだわ!」 といった。これは「 北溟館物語」の訳文で、元の文章と翻訳は「I wish Africa was dead!」(アフリカなんて消えてなくなった方がいいわ!) 少女はCaddy(和子)、エスターに心の絶望を打ち明けてから希望が生まれた。あとのほうで、母親から自立する物語がある。 さて一夜明けて、朝の冒険がはじまった(第5章)。 といってもささやかな出会いである。でも、エスターたちは知る由もなかったが、大きな物語につながるものであった。 以下次号 |
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