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私の愛読書

 「 北溟館物語」または「荒涼館」(ディケンズ)

2 「 北溟館物語」のはじまり

 物語は父母を知らない孤児エスターの成長が軸になっているが、はじめにあるのはロンドンや郊外の冷たいスモッグの描写である。
第一章
 ロンドンの霧の描写ではじまる文章はこの物語全体の雰囲気を示す部分で原作ではかなり長いのだが、「北溟館物語」では簡略化され、
「その霧が最も深く渦巻いているところ-大法院」の場面に続く。

 もう一世紀近く紛糾している「陣野対陣野事件」という莫大な財産相続の訴訟があり、この日も弁護士の陳述がだらだら続いている。
この物語の登場人物の多くがこの訴訟の関係者で、たくさんの弁護士がこの訴訟を飯の種にしているのだ。

第二章は同じ日の午後、上流社会の場面である。
 サー デッドロック(稲毛男爵)は雨が降りしきる林昏州の荘園からロンドンの邸宅に引き上げてきた。

 屋内は赤々と暖炉が陽気に燃え盛っている。
男爵夫人(レディ デッドロック)はものうげに安楽椅子にもたれて、顧問弁護士タルキングホーンが淡々と裁判の報告をするのを聞いていた。
彼女も訴訟の関係者である。

 退屈そうだった夫人が、弁護士が手に持つ法廷の書類にふと目をやり、はっとして
「これは誰が書いたのです?」とたずねた。
弁護士が眼を上げると、夫人は真っ青な顔をして失神しそうになっている。
「なにかご不審でも?」と弁護士
「いいえ別に…」と夫人は答えたが
「誰かを呼んでください」といって、寝室へ下がった。

第三章は恵美子の生い立ち
 霧が立ちこめるこの同じ日、ロンドンに着いた一台の馬車に一人の少女が乗っていた。エスター・サマーソン(篠原恵美子)である。
 エスターは厳格で信心深い養母から母は死んだと聞かされ、「お前は恥の子だ、生まれてこなかった方がよかったのだ」と幼いころから言い聞かせられて育った。
 養母の死後、眞仁(Kenji&Carboy)法律事務所の代表者という人がやってきて、エスターに後見人がいて、寄宿制の女学校に入学することになっていると告げられた。
顔も知らないその後見人は、養母の遠い親戚であり、また養母の離婚した夫とは親友でもあったジャンディス(陣野)氏という人であった。
 引っ込み思案のエスターだったが、努力家で誠実な人柄を愛されて幸福な六年間の学校生活を過ごした。
そして、卒業すると再び法律事務所から陣野氏の指示が届き、ロンドンに旅だったのである。
 馬車が止まったのは裁判所の近くである。出迎えの青年がエスターを裁判所に案内した。
そこには陣野氏が後見する二人の男女がいた。エイダ・クレア(呉綾子)とリチャード・カーストン(軽部利喜夫)、二人はお互いに初対面だったが、陣野一族につながる遠い従兄妹同士だった。遺産相続にも関わっていたので裁判所で資格の確認がなされていたのだ。
エスターは関係者ではなかったが、後見人陣野氏によってエイダの相手役に選ばれ、ここで引き会わされたのだ。
 三人はロンドンに一泊してから陣野氏の屋敷に招かれることになっており、翌日鳩津州にある「北溟館」に旅だつ。   以下次号
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